池上英洋『西洋美術史入門』
大学生の頃に美術館に行くことにハマってしまった私は、もう大学も卒業近いというのに、猛烈に学びたいことを見つけてしまいました。
それが、美術史です。
美術史なんて知らなくても、作品を素敵だと思える、展覧会を楽しめる。
それはそうなのですが、展覧会ではやはり、次々と疑問が湧いてきます。
「何でこんなでかいキャンバスを使ってまでこの絵を描いたのかしら…」
「日常の一コマのようだけど、当時はウケたのかしら…」
きっと美術史を知れば、もっともっと楽しくなるに違いない!
社会人になってしまったけど何とかして美術史を学びたい!
そう思った私はズバリなタイトルのこの本を手に取っていました。
それが池上英洋先生の『西洋美術史入門』です。
ただ、この本は美術史の通史についてというよりは(最後の章に簡潔に通史はまとめられていますが)
・美術史とは何か
・なぜ美術史を学ぶのか、学ぶ意義
というところについて多く書かれています。
インターネットはもちろんない、新聞やテレビ、ラジオもない…というか本もロクにない!
そんな遥か昔に、絵画は「情報を伝えるもの」としての側面を強く持っていました。
布教のために描かれたキリスト教絵画などがそれにあたります。
つまり近代より前の絵画は、当時の社会に求められて描かれており、何かしらのメッセージがこもっていることが多いのです。
池上先生はこう述べます。
「絵に込められたメッセージを読みとってはじめて、私たちはその絵が描かれた当時の人々の考え方を理解することができます。つまり美術史とは、美術作品を介して『人間を知る』ことを最終的な目的としており、その作業はひいては『自分自身を知る』ことにいつかはつながるでしょう」(16頁)
ふ…深い…!
私はまだ、ここまでの境地に達してはいません。
ですが、作品を前にすると、何だか画家と話しているような、画家の気持ちが分かるような気がする時がたまにあります。
そして、そうした経験を通じて、自分はどう思うかを改めて自分自身に問い直せるような気がします。
さらにそうした経験をすることができた作品は、間違いなく大好きになります。
ただ、こうした経験をするにもある程度知識や技術が必要です。
そうした知識や技術にもしっかり触れてあり、さらには巻末の「さらに学びたい人へ」という、学びを深めるのに役立つ文献リストもあります(これが初心者にはほんとーーーーにありがたかった…!)。
美術史の通史を最初からガッツリ!でもいいのですが、なぜ学ぶのか?という動機付けがしっかりできていれば、挫折するリスクも少なくなるでしょうし、挫折しそうになった時にその動機が道しるべの役割を果たしてくれます。
この『西洋美術史入門』は、奥深い美術史を学ぶ人の、そうした道しるべとなるような本だと思います。
私のものは、表紙がボロボロになってしまいましたが、これからも折に触れて読み直したい、そんな本だと思います。